FEATURE

ふくおか経済EX 2011

㈱縁


積算技術の継承に注力し業界の地位向上を目指す

寳部 勝彦 代表取締役会長兼相談役
たからべ・かつひこ/宮若市出身。1961年12月5日生まれの49歳。国立有明高等専門学校卒。建築業界に就職後、29歳で独立し、同社を創業。趣味はスポーツ
小佐古 哲哉 代表取締役社長
こさこ・てつや/広島県出身。1964年11月26日生まれの46歳。県立広島工業高等学校卒、趣味は読書

創業者の寳部氏が相談役に

数的根拠に基づいて、建築物の価値や必要な材料を算出する建築積算サービスを展開する㈱縁(えにし)。「若手の育成に力を入れ、これまで培ってきた積算技術を継承していく」と創業者であり、これまで社長として従業員100人を牽引してきた寳部勝彦氏は、4月1日付で代表取締役会長兼相談役に就任した。代表取締役社長には、創業時からともに同社を支え発展させてきた小佐古哲也副社長が就任。寳部相談役は、これまで訴え続けてきた建築業界における積算サービスの地位向上の実現と若手育成に注力し、小佐古社長が新体制として経営など実務を引き継ぐことで、同社はさらなる飛躍に向け大きな一歩を踏み出す。
同日付で30人の新入社員が入社した。本社を置くGOAビル4階に研修施設を開設。寳部相談役自ら積算技術はもちろん、社会人としての仕事への取り組み方や、「一期一会」を社訓とする縁イズムを徹底的に教育していく。
「縁」という社名の由来は「人と人との縁を大切にしたい」という思いの表れ。「私達技術屋の仕事は、机に向かって一点に集中する世界。でもそれだけじゃ面白くない。だから若手を育てて技術を継承することで、我々は若手から時間をいただき、外でいろいろな人と出会ってレベルやスキルをアップしていく」と若手育成の大切さを訴える。研修施設で10カ月〜1年間教育した従業員を全支店に配属。また「これまで日々の業務に追われて十分に教育ができなかったジレンマがあった」と、その後は先輩社員らも再教育する。若手社員は実務で技術を磨き、中堅は教育とマネジメントを、トップは経営をと、本当の意味での「組織」の再構築を進める。

5月までに東京・大阪事務所を拡張

4月に大阪市中央区の「本丸田ビル」4階に入居する大阪事務所を拡張し、従業員20人体制(従来16人)に増強する。5月には東京都千代田区の東京事務所を同じ千代田区神田の「神保町SFⅢビル」に拡張移転し、こちらも従来の20人から30人体制となる。今後5年間で毎年30人を採用し、寳部相談役が徹底教育した従業員を全国に配属して出先機関の体制強化を図っていく。
「ある政党や議会の方に私の考えを話したり、銀行関係の方に建築サービスを活用する利点を説明したりしている」。建物の構造や材質に至る細部から根拠に基づいた資産価値を算出することができる積算を最大限に活用すれば、建築業界のデフレ脱却や、プロジェクトの途中で中止となった建物の価値算出などあらゆる可能性が広がっているという。寳部相談役は、現在の積算業界の限られたステージを脱却させ、先陣を切って業界の新しいステージを生み出そうと全国を飛び回っている。「今後、建築の道を志す若者の中に、建築、構造解析、ゼネコンと並んで“積算事務所に行こう”と言う人が出てきたら素晴らしいと思う」と業界のさらなる発展に力を注いでいる。

インターネットを利用した積算システム「ENシステム」を構築

同社は全国で初めて、インターネットを使い、どんな場所にいてもリアルタイムで作業できる設計、積算、構築まですべての工程を連動させた3D積算システム「ENシステム」を構築。「私の世代は青焼の図面から叩きこまれて、手が真っ青になり、鉛筆ダコができるまで手作業でやってきました。以前は、電卓をたたいて、おかしな点があれば、勝手に指が止まる感覚になるまで体に染みついていた」。その感覚を持った技術者がENシステムを使うと、生産性が25%伸びたという。
システム化が進んだ今、手作業での積算技術を教育されていない若手技術者は、システムを便利なツールとしか見ることができないという。「技術とは経験によってつくり上げられ、完成を磨いてできあがったもの。出てきた数字に自信を持つという大切さが失われつつある」と図面だけでなく、図面を書くに至った数字を細かに保存データとして残すことが積算サービスとして大切なことだと強調している。

“縁”という法人の下に働く“人”を大切にしたい

建設業界を渡り25歳で積算事務所に入社した寳部相談役。入社当時は30人程度の会社だったが、バブルの波と受注量の多さでどんどん規模が大きくなった。事務長、福岡事務所技術課長、広島事務所長、名古屋事務所長の4つの役職を兼任していたが「辛いとか忙しいなどと全く思わなかった。経営者の視点となり、日本一の積算事務所にしようと、若手を自宅に呼んで、深夜までこたつに入って教育していた」と振り返る。
独立したのは、会社に若い従業員がステップアップする環境がなかったため。「想いを込めて育ててきた部下が辞めていくむなしさを上司に訴え、教育システムを社長に提示したが受け入れられなかった」。そこで、29歳の時、同じ志を持ってついてきた部下たち7人とともに独立した。個人事務所が多い積算業界だが、経営者にも社員にも責任感が生まれるよう法人化し、㈱縁をつくった。「たとえ積算業がなくなっても、法人は残る。飲食店でも重機に乗っていても何でもいい。法人の下に人を残すのだと明言した」。それから18年、今では全国に拠点を5つも構え、130人の従業員を抱える組織にまで飛躍した。
創業以来、右肩上がりで増収し続けている。しかし全てが順風満帆だったわけではないという。「阪神大震災の1年ほど前、1カ月全く仕事がない時期があった。当時10人足らずで毎月1500万くらい売り上げていたのが150万円まで落ち込んだ」。一気に13百万もの赤字を抱えた。ところが寳部相談役は「赤字額を5年で割れば260万。毎月20万ということは、約0・5物件、これまでに加えて契約できればいいのだ」と従業員に説明した。従業員は一致団結し、3カ月で赤字を清算。それまでで最高の利益を上げた年度だったという。
新たな時代を担う小佐古社長に「どんな会社にしてほしいという思いは一切ない。時代背景とともに会社は変化していく。“法人の下に人が働いている”という根底を大切に、2代目らしい組織をつくってほしい」と思いを込めて経営を引き継ぐ。積算サービスのステージを広げ、全国に羽ばたく今後の同社に注目したい。

本社が入居する博多区住吉の「福岡GOA」ビル

 

企業DATA
所在地 〒812-0018 福岡市博多区住吉4丁目1-5 福岡GOAビル8F
TEL 092-452-1120
FAX 092-452-1170
創業 1993年8月
設立 1994年6月
資本金 1200万円
事業内容 建築積算業、積算ソフトの販売・保守 建設工事一般
年商 12億円(10年4月期)
代表者 寳部勝彦、小佐古哲哉
従業員 130人
出先 広島、大阪、名古屋、東京

採用情報
募集職種 建築積算
応募資格 建築の経験者や技術者および建築を学びたい方
※全国の希望勤務地に配属
採用実績 09年度2人、10年度5人、11年度30人
採用予定 12年度10人
問合せ先 TEL.092-452-1120
担当 松井

(ふくおか経済EX2011年)