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労使ニーズに即した形で「働かせない改革」見直しを 福岡商工会議所
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週刊経済2025年12月17日発行号
谷川会頭、新年インタビュー抜粋
福岡商工会議所の谷川浩道会頭は、本誌1月号「新年トップインタビュー」に応え、中小企業を取り巻く厳しい環境や、「働き方改革」の問題点について語った。以下、インタビューを抜粋。
―2025年を振り返って、地元経済にとってどのような1年だったか。
谷川 TSMCをはじめとする半導体産業の投資効果が九州全体に広がりを見せ、全国の中でもエリアとしての成長性が際立った1年だった。一方で、高市政権の誕生をはじめ、外部環境の変化が目まぐるしい年でもあり、特に上期はトランプ関税の動向に気を揉んだ事業者も多かったことだろう。当初発表された「相互関税」の内容は、対米輸出への依存度が高い製造業、その中小受託事業者にとっては非常にインパクトが大きい内容でした。結果として相互関税は15%のラインまで引き下がり、多くの企業にとって影響は限定的なものに留まったが、トランプ政権の「先行きの不透明さ」が投資マインドに与える影響は小さくないと見ている。実際に、まだ税率が確定前の段階で、「発注控え」と呼べる現象が一部に見られた。将来に対する不確実性のリスクが、投資抑制につながることを懸念している。
―福岡・九州で見るならば、自動車産業への影響が心配された。
谷川 基幹産業への打撃は地域に大きな影を落とすはずなので、深刻な事態に見舞われなかったのは幸いだった。加えて、日産グループの減産計画の影響が九州にどのように及ぶのかも深刻な懸案だったが、結果として追浜工場の生産車種が九州に移管されることが決まり、九州の雇用や経済への影響はないということ。これは非常に大きな分岐点だった。
―中小企業を取り巻く環境は。
谷川 活発な人流や商取引を追い風に、好調な業種も多い一方で、経営のリスクとなる部分とそれを取り巻く構造は、ここ数年あまり変化が見られない。主に物価高や人手不足といった外部環境に加え、適正価格での取引が進まないことが課題。大企業では好決算や高水準な賃上げが相次ぎ、日経平均株価が5万円を超える好況下ながら、多くの中小企業の経営者はこうした課題を前に、先行きについて慎重な見方を示しているのが実情だ。
近年、繰り返し訴えていることだが、慢性的な物価高の原因となっているのは、海外情勢の変化もさることながら、日銀による金融政策に起因するものだと断言できる。日米の金利差が円安の是正を阻み、インフレに対応した利上げを行ってこなかったツケが中小企業の利益を圧迫し、ひいては家計に負担を強いている。物価高、円安に対する最大の処方箋は金融政策であることを、引き続き関係各所に訴えていかなければならない。
―高市政権の発足以降、労働時間の規制緩和など、「働き方改革」のあり方に再び注目が集まっている。谷川会頭も働き方改革の「再検討」を訴えているそうだが。
谷川 従来から、日本企業の実態に即していない改革であることを指摘してきたが、先ほど触れたような経営状況の悪化が深刻な今だからこそ、大胆な再検討に踏み切るべきだと考えている。まず構造的な問題点として、現状の「働かせない改革」が、人手不足を助長している側面は否めない。労働生産性が高まらないうちに労働時間の上限を厳しく制限してしまったことで、結果として人手不足を深刻化させている。先般、日本に進出している外資系企業の幹部が、日本の社員が「想定よりも働かない。使ものにならない」と発言したことが注目を集めたが、労働時間の厳しい規制が、もっと働きたいという社員の意欲や成長の機会を削いでいる側面は確かにあると思う。実際に、さまざまな現場で技術革新による効率化が進んだこの30年、生産性が向上する一方でGDPの成長率は約1・2倍に留まっている。これは、働き方改革による「労働供給量の減少」が要因の一つだと見ている。
―どのような方針へ転換すべきか。
谷川 規制を守らせることに固執した制度ではなく、労使双方のニーズに即した形で、もっと柔軟な制度体系を目指すべきだと考えている。そもそもの前提として、改革の「順番」が違う。本来の働き方改革のあり方は、まず生産性の向上を先に図り、その成果で余裕ができた時間を使って、労働時間の削減を進めるべきだ。しかし、現状は、生産性向上の余地があるにもかかわらず、先に労働時間の制約を強めてしまっており、ここに課題があるとみている。そして、中小企業にとっての生産性向上の近道と言えば、DXによる効率化が筆頭に挙げられる。ただし、中小企業の多くは、DXの手前のデジタル化・IT化の段階。当会議所としても、官民連携でデジタル化をハンズオン支援するコンソーシアム「よかデジ」の活用を積極的に会員企業に呼び掛けているが、政府としてもまず生産性向上ありきで働き方改革に進むというステップを意識してほしいと願っている。

