INTERVIEW
地場企業のための“生成AI活用術”
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「ChatGPT」の出現以来、著しい進化を遂げる“生成AI”。
企業や自治体においても利活用が広がる中、生成AIに対する興味は地場企業経営者の間でも非常に高いものを感じる。
ビジネスにも変化をもたらす生成AIの活用術について、
法人向けマルチ生成AIプラットフォーム「QT-GenAI」
を試験運用含め約60社に導入している㈱QTnetの佐伯和広YOKAプロAI事業グループ長に聞いた。
業種や規模に関係なく生成AI活用が加速へ
―現在の導入先について、どのような業種で活用されていますか。
佐伯 当社の場合は福岡県のような自治体や九電グループ企業、金融、医療など業種に関係なくいろいろな業界で利用いただき、現在のユーザー数は2300ユーザーに上っています。
―利用する部署は管理部門系が多いのですか。
佐伯 部署による偏りはあまりありません。どの部署でも使えますし、実際に使っていただいています。導入におけるトライアル段階では、最初は情報システム部門などが頭を取るケースもありますが、まずは志願者を募って使っていただき、自分の業務で何に使えるかを試しながら、その方々を起点に普及を拡大させ、全体に広げていこうという流れが多いですね。
―導入先の企業規模に特徴はありますか。
佐伯 当社では当初のターゲットを比較的規模の大きい企業に設定していましたので、現在は必然的に社員数も多い企業が中心ですが、社員数が少ない企業からのオファーも確実に増えています。当社では中小企業向けのプランも開発を進めていますし、他社もそのような動きが出てくると思われるので、早い段階で中小企業でも利用しやすい環境が整ってくるのではないかと考えています。
―そうすると、今後は業種や企業規模、部署などに関係なく生成AIの活用が加速していくわけですね。
佐伯 生成AIは本当にさまざまな知識を持っていますので、各分野で自分の「秘書」として使えるツールになっていくと思います。ただ一点、中小企業での生成AI導入のハードルとして、ペーパーレス化が喫緊の課題となります。データ化していないと生成AIに読み込ませることができないので、ペーパーレス化とセットでの導入が必要です。
「アウトプットの速さ」と「質の向上」を実現
―生成AIがもたらす具体的な効果はどういうものですか。
佐伯 まず言えるのは、「アウトプットの速さ」と「質の向上」、この2つに集約できると思います。最近はマルチモーダルAIと言って、テキストだけでなくPDFや画像、動画、音声なども要約でき、複数の種類のデータを一度で処理することが可能となりました。企業で日々使われているデータを使ってタスクを指示し、データに対するフィードバックをもらうなど、アウトプットを作るという使い方が、一番伸びています。
例えば、100ページのPDFを読もうとすると、人が作業する場合、上から全部読まないといけないですが、生成AIに要約してもらって、自分が知りたいポイントだけを絞って読むことができます。また、自分が作った資料のレビュー、校正、要約をしてもらうことも可能です。それから、検索ではできないのが「比較」です。 例えばAとBとCの違いを比較したい時に、検索だとAもBもCも調べないといけませんが、「AとBとCを比較して」と指示するだけで、その比較ができる点も生産性の向上につながります。
また、プログラミングに際してもよく使われていまして、エラーの原因特定であったり、他人が作成したコードを解説してもらったりができます。他人が作ったコードは読み解くのが難しいのですが、生成AIを駆使すると容易にチェックできるようになります。
―それはシステムエンジニア(SE)といった特殊な職種の話ですか。
佐伯 もちろんSEの方々も使っていますが、普通のオフィスワーカーの方でも一般によく使われる表計算ソフトのExcelなどの「マクロ」という、処理を自動化するための機能で使っています。今までコードが書けないからとこのマクロ機能を使いこなせていなかったのが、生成AIを活用することでプログラミングが容易となり、自分の仕事を自動化できるようになったという事例も増えてきています。
秘書や管理職のような役割を果たしてくれる
―他にも活用事例はありますか。
佐伯 「相談」という機能で言うと、特に若手社員がなかなか先輩や上司に聞けないことを、AIに聞くことによって、ある程度の道筋を教えてもらえることができます。最近の例で言うと、コロナ禍があって若手社員に出張という概念があまりなく、出張に際して何をしたらいいのか分からないということがあったのですが、それを生成AIに「出張ではどういうことが必要か」ということを聞いて、交通チケット取りといった段取りから精算まで教えてもらうといったこともありました。そういった心理的安全性と言いますか、なかなか人に聞けないことを補完してくれる、本当に秘書のような役割ができる点は便利ですね。
それから、今大学で学生にAIについて教えているのですが、その中で、生成AIを駆使することで、数回の講座で全員がWebページを作れるようになりました。「どのようなことを伝えるWebページを作りたいのか」を文字で伝えると、コードが生成され、Webページが簡単に作れるわけです。センスのある人が作ると、そのまま使えるレベルのWebページが作れます。このように、生成AIは今までできなかったことができるようになるという点で、新しい業務へのチャレンジのハードルも下げてくれ、より人間の可能性を引き出してくれることを実感しています。
―ビジネス目線での事例は。
佐伯 ワードやパワーポイントのあらすじストーリーを作るのが簡単にできることと、例えば、製品の提案書を生成AIに読み込ませて、「このお客さまに刺さるためにはどういったトークをすればいいか」と指示すると、そのトークの一例が出てくるので、今までは管理職が担っていたような役割も果たしてくれます。
あとは、私の中でのパラダイムシフトと言いますか、それまでメールは自分で一から全部打って、心を込めて送った方がいいという思いがあったのですが、一旦AIを使い始めると、文章が綺麗なので、お客さまも多分読みやすいだろうなと思うようになり、送信ボタンを押す時だけに気持ちを入れようと思うようになりました(笑)。意外とメールは一文一文考えるので時間がかかるという方も多いのではないかと思います。それを考えなくていいくらいの綺麗な文章が出来上がりますので、そういう業務の変化が起きています。
作業時間やアウトプットが平均30%強の削減効果
―自社や導入先の生産性の向上は、どれくらいになるのですか。
佐伯 当社の調べでは、作業時間が平均34・3%、アウトプットが平均32・2%の削減効果が出ています。必ずしも人がしなくてもよい業務を生成AIに任せることができ、生産性の向上、ひいては人手不足の解消にも役立つと考えています。
―アウトプットとは、どういうものを指すのですか。
佐伯 先ほどお話しさせてもらった資料やメールの作成、要するに文章の作成・要約・構成といったことや、コード生成やプログラミング、マクロの作成などもそうですね。しかし、生成AIを使いこなすには、いかに自分が欲しいアウトプットをうまく言語化できるかが重要なポイントになります。

佐伯 和広 Kazuhiro Saeki
㈱QTnet YOKAプロ AI事業グループ長
2007年㈱QTnetに中途入社。技術部門を経て、20年から新規事業部⾨に所属し、無人店舗の実証やeスポーツ施設の新設などのプロジェクトを担当。23年からAI事業のリーダーとして法人向けマルチ生成AIプラットフォーム「QT-GenAI」のリリースなどAIを活用した新規事業の創出に従事。また、私立大学の非常勤講師としてAI人材の育成に積極的に取り組むほか、Google主催のイベント登壇や商工会議所でのセミナー講師など生成AIの普及・教育に注力する。一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員
「検索」ではなくて「作業指示」をする認識が重要
―生成AIの活用はまだこれからという企業が多いようですが、導入から普及までのステップはどういう形になりますか。
佐伯 企業規模によりますが、まずは20~50人単位の勉強会で生成AIの基本的な仕組みを理解することが一つ。社内で1人だけで使うのは難しいところがあるので、コミュニティを作っていろいろと相談しながら使っていくこと。また、生成AIは何でもできると思われがちですが、できること、できないことがありますので、その仕組みをまずしっかりと理解していきます。
その中でも大切なのは、生成AIへの指示は、検索とは全然違うものだという認識です。「検索」ではなくて「作業指示」をするということを意識しなければいけません。「プロンプト」と呼ばれる生成AIに対して与える「指示や質問」の仕方、その言語化能力が一番重要になってくるので、ここをいかに考えられるかがポイントとなります。
―社内勉強会では将来AI人材になり得る人を選抜する形ですか。
佐伯 イノベーターと言いますか、社内で使ってみたい人をまずは社内横断的に募りどんどん利用してもらって、その方々を軸に他の方々やいろいろな業務へ波及させていく形が普及を促進しやすいと思います。若手の方、特に現場の社員の方ですね。20~30代のデジタルネイティブの世代はなじみやすいようです。例えばスマートフォンで音声アシスタントをうまく使っている人は、 生成AIのプロンプトもうまく作れる傾向にあります。
逆に40代以上は、どうしても単語を並べるだけの検索になってしまいがちですから、先述の通り検索ではないという認識、相手は自分の部下や秘書だと思うぐらいの頭の切り替えが必要です。研修でも実感するのは、年代に関係なく部下にきちんと指示が出せる優れた管理職はおそらくよく使いこなせるはずです。
勉強会でまずは生成AIを理解すること
―安全性の確保などビジネス現場での生成AI導入に際して留意する点は。
佐伯 やはり指示した内容、プロンプトがAIエンジン側で再利用される可能性があるサービスを使わないのが大前提です。そういったところをしっかり見極めてツールを選ぶことですね。無料版のツールなどは、入力した内容が全部学習に使われてしまう可能性がありますから、ビジネスでは使わない方がいいと思います。
それと生成AIは「ハルシネーション」と呼ばれる、事実に基づかない情報や存在しない情報を生成する現象がありますが、「生成AIは嘘をつくことがある」ということも理解する必要があります。そのためには、やはり勉強会などを通してリテラシー、基本的な知識を身に付けることや利用にあたってのガイドラインを策定することが重要です。特に画像生成などは知的財産権に関わってきますので、非常にシビアに見ていく必要があります。
―安全面で他に留意することは。
佐伯 いろいろとありますが、やはり生成されたものをそのまま使わないことですね。 必ず人間が最後はチェックした上で使うということ。あとは個人情報を入力しないこと、基本的にはその2つがメインですね。当社のサービスの場合、ユーザー分析やNGワード、それからメールアドレスや電話番号、口座番号があれば送信できないような仕組みを入れていますので、そういう機能を使うとより安全に運用できます。
―最後に生成AI導入を考える地場経営者にメッセージを。
佐伯 やはり生成AIは進化が著しいということ。それに伴い、各社のサービスも拡充され、できることの範疇も格段に広がっています。当社の生成AIプラットフォーム「QT-GenAI(キューティージェンエーアイ)」も主要な3つの生成AIモデルを利用できるほか、ユーザーインターフェースや50種類以上のプロンプトのテンプレートなどビジネスで使いやすいように機能やサービスを拡充しています。
導入先の研修などを通して思うのは、すでに生成AIを導入している企業とそうでない企業との差が開いてきているということ。生成AIを導入しても、最初はうまく結果が出ないことも多いのですが、粘り強く長期的目線で取り組むことが重要です。それすれば、生産性向上のツールとして効果を発揮することは当社でも実証済みです。当社の生成AIプラットフォーム「QT-GenAI」は、トライアル利用も可能ですので、生成AI活用の第一歩として、そういうトライアルを利用することをお勧めします。
(ふくおか経済2025年2月号「Bizサポ2025春季号」掲載)