FEATURE

ふくおか経済EX 2009

第一交通産業グループ


交通事業を核に地域とともに歩むマルチカンパニー

黒土 始 代表取締役会長
1922年1月31日生まれの87歳。大分県中津市出身。64年㈱第一交通産業を設立し社長に。2001年代表取締役会長

タクシー乗務員採用で雇用創出

派遣社員を中心に雇用不安が社会問題化するなか、第一交通産業グループでは昨年12月〜今年3月末に「雇用創出プラン6000」を実施した。景気悪化で働く場を失った労働者の雇用の受け皿として、全国30都道府県でタクシー乗務員を中心に6,000人の正社員を募集したもので、強化期間と位置づけ積極的に採用活動を展開。
製造業などの人員削減策が次々に表面化していた時期だけに、明るいニュースとして注目を集めた。
雇用の場の創出は社会的な意義も大きいが、フルタイムで働ける乗務員の確保は経営的な側面からも大きな意味を持っている。田中社長は、その背景を次のように説明する。「15年以上続いている慢性的な人手不足と乗務員の高齢化は、経営課題になっていた。今後グループ全体で800人が定年を迎え、年金受給で労働時間が限られる乗務員の割合が高まれば、1日当たりの稼働が非効率になる。1台当たりの稼働率を引き上げ、限られた時間内で収益を確保するためにも正社員として働ける乗務員を増やすことが必要だった」。
異業種からの若い人材の採用には、創業者の黒土会長も「労働環境の改善も含め、積極的に取り組みたい」と意欲的な姿勢を示す。
もっとも人員確保がすぐに稼働率向上に直結するわけではなく、それに伴うコスト増は否定できない。特に今回は業界未経験者を中心に採用を進めただけに、普通2種免許の取得指導や受験費用・研修日当の支給、最新のカーナビシステム搭載車両の投入など莫大なコストを要する。同グループでは、現行の60人の教育指導者を150人まで増強し新人の教育体制を強化。さらに来年度以降には、北九州市内に研修機能を備えた営業所の開設も目指すという。
日本一のタクシー保有台数を誇る同グループゆえに可能な展開で、閉鎖的な業界に風穴を開けるためにも思い切った投資といえよう。同会長も「教育や設備投資にかかる費用は莫大だが、安全で快適なサービスを提供することがタクシー会社の使命。雇用創出という社会的役割や経営効率の側面もあるが、一番の目的はサービス向上にある」と強調する。

北九州市小倉北区馬借2丁目の本社ビル

4月に沖縄の再開発ビルが完成

その黒土会長が陣頭指揮をとる沖縄での展開は、今年7月で丸5年を迎える。2004年7月に那覇交通㈱から営業を譲り受けて路線バス事業に本格参入。06年9月には沖縄最大のバス会社・琉球バス㈱の株式譲渡を受け、今ではコミュニティーバスを運行するほど県民の足として定着した。この間数社の地元タクシー会社を傘下に治め、タクシー事業も開始。不動産事業にも着手し、名護市に県内2棟目となるマンションを建設している。那覇市の新都心・旭橋再開発事業にも参画し、今年4月には再開発ビルが完成する。交通事業を核とした事業展開を進め、地場企業として地域活性化にも取り組んできた。
当初から精力的に取り組む同会長は、地元にマンションを確保して今でも毎月1回は必ず現地に足を運ぶ。地元経済界の会合にも精力的に参加し、地場経済に溶け込んだ活動を進めている。「私自身も半分は沖縄県民のつもりで取り組んでいる。地域経済の活性化のための事業展開であり、地元経済の発展に結び付けたい」と抱負を語る。
現場で経営の指揮を担う人員のうち、本部から送った人員はわずかに2人。「地元の企業は、地元の人で…」を基本に現地採用の人材を要所に配し、地域密着の展開を進めている。

現場重視と地元密着のM&A

地域密着は沖縄だけに限ったことではない。同グループはM&Aを進めて全国30都道府県でタクシー事業を展開しているが、すべて地域子会社として分社化。M&Aの相手先企業から幹部社員を登用し、沖縄と同様に現地の人材がその地域に合わせた経営を進めている。もちろん、地域で上がった収益は地元に還元し、地場企業として地域密着路線を展開。「タクシー事業は、地域の方に利用してもらわないと成り立たない。地域への利益還元は当たり前のこと」と言い切る。
九州経済調査会が発行した「九州経済白書2009」でもハイブリッド型地域企業の経営戦略として、同社の例を取り上げている。そのキーポイントとして「徹底した現場主義と地域密着のM&A」に注目している。
こうしたタクシー事業を核にマンションなどの不動産事業や地域に隠れた名産品を発掘し世に送り出す通販事業「逸品倶楽部」、輸入車販売事業など多岐に渡る事業を展開。介護や医療分野にまで広がりを見せている。その基本も地域密着にあるといっても過言ではなかろう。

創業50周年に向け体質強化

1960(昭和35)年に同会長がわずか5台のタクシーで創業。来年は創業50周年の節目を迎える。その間、積極的なM&A戦略で営業エリアを広げ、タクシー認可台数は約6,800台、バスなどを加えると7,500台を突破した。
異常ともいえる燃料費の高騰も落ち着きを取り戻し、タクシー事業も回復傾向にある。ただ、世界的な経済危機に伴う景気の悪化はタクシーに無関係ではなく、需要は10%ダウンしているという。今回の景気の悪化について同会長は次のように話す。
「戦後の統制経済の時代から64年間経営に携わってきたが、その間には雨の日も風の日もあった。今回は予想を超える暴風雨だが、こういう時こそ足元をしっかり固めて知恵を出し合わなければならない」。こうした危機感が結束や予想を覆す知恵を生み出すこともある。積極的な採用に見るように、逆境をチャンスととらえ、創業50周年に向け経営体質の強化のため力強く歩み続けている。

田中 亮一郎 社長
1959年4月4日生まれの49歳。東京都出身、青山学院大学経済学部卒。82年4月全国朝日放送に入社。85年7月第一交通産業株式会社非常勤取締役に。95年5月副社長を経て、97年2月から代表取締役副社長。2001年2月社長。趣味はゴルフと中学時代から続けているテニス

 

企業DATA
【所在地】〒802-8515北九州市小倉北区馬借2-6-8
【TEL】093-511-8811
【FAX】093-511-8812
【URL】http://www.daiichi-koutsu.co.jp
【創業】1960年6月
【設立】1964年9月
【資本金】20億2,755万円(グループ約48億円)
【事業内容】タクシー事業、バス事業、不動産事業、自動車関連事業、金融事業他
【年商】約920億円(連結08年3月期)
【代表者】田中亮一郎
【従業員】約14,000人(臨時従業員含む)
【出先】(支社)福岡県、東京都(グループ事業所30都道府県)
【関連会社】那覇バス㈱、琉球バス交通㈱、㈱第一ゼネラルサービス、第一OKパーキング㈱など123社

採用情報
●募集職種:①総合職:業務、営業②一般職:事務
●応募資格:2010年大学卒業見込み(全学部全学科)
●問い合わせ先:TEL093-511-8811
●担当:総務部人事課田中、古橋

(ふくおか経済EX2009年)